セミナー概要 第51回~
<以下のセミナーはZOOM meetingを用いたリモート形式で行いました>
第51回 「中島平太郎さんからの宿題」
随筆「音のゆらぎ」(雑誌OHMに2009年1月~12月掲載)で中島平太郎さんが残されたオーディオに関する宿題を参加者の皆様と一緒に考えました。
講師:茶谷郁夫(NHラボ㈱)
日時: 2023年9月28日(木) 13:30 ~15:30
セミナーでのご意見ご質問をメモの形で以下にまとめました。
ご質問に対してお答えできていないところは、今後の宿題としてとらえていきます。
<前半>その1「生の音と作った音」
KMさん:
資料のデータを見ると、音楽の音に対応して心拍に変化がある。
音量やひずみなど、いろいろ条件を変えて測定するどう変化するのか興味がある。
YYさん:
セミナーを聴き、改めて中島平太郎さんは奥の深い方だと感服している。
自分も中島さんからいくつか現実的な宿題をいただいている。
超電導材スピーカ開発後、「超電導スピーカ、コンデンサスピーカ、圧電スピーカを等価回路で表すとみな同じ」、という手書きメモをもらった。
現在超音波を使った圧電スピーカを開発中。
SIさん:
音の聞こえは各個人の耳の中の繊毛の共振周波数に影響するという。音の好みも各個人の耳の中の構造に影響を受けているのでは。
茶谷さん:
人によって聞こえ方が当然ちがう。いろいろなスピーカを設計した時に、人によって良い音が違うという経験をした。音のとらえ方は難しい。
自分は、良い音から好きな音を外すと自然な音が残るので、自然な音を基準にしたスピーカのチューニングをする。チューニングがうまくできると、スピーカの完成度が上がり、それまで気になっていた音が一切しなくなり、いろいろな曲が聴けるようになる。そういう経験を何度かしたことがある。
NSさん:
江川三郎さんの提案された「ヒトの声をマイクで集音し、それをスピーカで再生。元の音と比較。差が少ないスピーカが良いスピーカ」という方法が参考になるのでは。
自分で実験できる器材キットを紹介してもらえると嬉しい。
茶谷さん:
良い方法だと思う。オーディオ的、ハイファイ的なところに注目した比較評価をみんなで共有できるチャンスを作りたい。
KMさん:
マイクの開発では、評価方法として開発者の周りにいる人の声を使ってテストすることがある。しかし、オーディオ機材には必ずくせがあるので、この方法もなかなか難しい。
音の評価目標を「自然」に置くと、どれが自然かを決める必要があるが、音楽には「自然」はないと思う。同じ楽器でも聞く場所によって相当音が変わるので、楽器を「自然な音源」として使うのには向いていないのでは。
むしろ 川のせせらぎ音、風の音などの方が自然、不自然が分かりやすい。
また、自分の声をマイクの評価に使うと声に違和感があり、だめだと思う。
むしろ、普段良く聞いている他人の声を使うと良い。
(江川さんの手法は)マイクロホンの開発時には有効と思う。ただし、カラオケ用のマイクには音にわざとキャラクターを付けることがあり、自然ではない。ハイファイ用のマイクでもくせを狙っている場合があるので、なかなか難しい。
自然音を何にするか、マイクに何を使うか、さらに、部屋で再生する装置の音の良し悪しも考慮する必要がある。
HFさん:
マイクのクセ、スピーカのクセ、そのほかの再生装置によって評価が変わってしまうので、再生装置全体を検討する(特徴を良くつかんでおく)必要がある。
KOさん:
生の音、再生音を客観的に評価する方法はないか?
マイクのくせに左右されない方法はないか?
ヒトは記憶(の音と)と比較している。同じピアノでも聴く人によって記憶が違うので評価も違ってくると思う。
AMさん:
一番気になる点は、空気振動をマイクが拾って増幅し、その信号でスピーカが駆動され空気振動を発生させるが、その両方で生の音が変化してしまうこと。生の音を(マイクで拾い、最終的にスピーカで)そのまま出すのはかなり難しいのでは。
「自然な音」とは「リニアな音」ではないかと考える。トランジェント、時間軸特性、位相特性が優れた(リニア)なもの。特に低音のトランジェントが良くなると生音に近くなると思う。
<後半>その2「良い響き」以降最後まで
STさん:
再生面だけの観点からのコメントだが、音質評価の言葉があやふやという指摘はその通りと思う。生の音を知ることが大切とも思う。
デジタル時代にアナログが取り上げられるのはデジタルの録音に問題があるからではないだろうか。アーメリングの録音がいまだにいろいろなところで使われている理由は、多くの人が良い録音と思っているからだと思う。自分はその録音に立ち会ったわけではないが、きっとこういう音かなと想定して聴いている。
CDが世の中に出た時に、プレーヤのアナログフィルターが議論されCDの再生音に影響しているという指摘があった。 (アーメリングをふり返ってみれば) 録音自体はその当時も良かった気がする。
アナログが未だに良いというのは、昔カッティングしたアナログレコードには昔の録音が使われていて、そちらの方が音が良いからだと思う。雑音を少なくした録音は全般的に音があまり良くない。
良い音を再生する環境については、残響や雑音などをどうするかについての様々な考え方があると思うが、自分は生活している環境で聴くのがベストと考える。特別な部屋で聴くのはあまりよくないと思う。
茶谷さんの「音のゆらぎに」の投げかけは今後とも大切なことと思う。
HNさん:
今までのセミナーでの録音再生の議論では、ハードウエア中心だったが、今日のセミナーでは聞き手の心理状態、ヒトの脳などのウエットウエアの研究に入ってきた、と感じた。
最終的にはヒトはどの様に音を聞くかに関して、進歩しているAIを活用して、例えばクラッシック音楽が好きな人の共通因子は何かとか、音楽が嫌いな人の共通因子は何か、あるいはこの音を聴くとなんで嬉しくなるのかなどを考える面白い分野に入ってきている。
主体は人間で、その心理や固有性(個性)で変わると思うが、音が人間の心理や行動に大きく影響することはあると思う。例えば、過去報道されたような、若い女性がビートルズを聴いて失神したことなど。
自分の経験だが、都内の禅寺での法事で、二人の僧侶が般若心経をユニゾンで唱えた時に、二人の声の微妙なピッチの差がうなりになって本堂の中に反響して、聴いていると恍惚に似たような感情を持ったことがある。
チベットのラマ寺でみんながユニゾンで歌う(祈る)とき、聴く人に相当な心理的迫力の影響があると思う。こういう人間の心理を突き詰めてゆくと、作曲家や演奏家に対して音楽の作りかたを示唆するようなところまで行きつけるのではないかと思い、非常に興味をもった。
YYさん:
提起された音の評価指標は、むずかしいものではなく、シングルナンバーインデックスにしてもらい、単位はNakajima、Heitaro , あるいはNHでもHNでもよいが、是非実現してもらいたいし期待している。自分も関わりたいと思っている。
以上