セミナー概要 第37回~第50回
<以下のセミナーはZOOM meetingを用いたリモート形式で行いました>
第37回 「音響測定器」
福島さんに2回に分けてお話しいただきました。
福島さんは半世紀近く測定器に関わってこられました。今回はスピーカとマイクロホンの設計、開発、量産、品質保証、品質管理の広範囲に及ぶ音響測定のお話しでした。
標準マイクとしてのB&K社4160と4180があります。マイクは振動板寸法が小さくなれば高い周波数まで特性がのびます。しかし面積が小さくなるので感度が下がります。
マイクには音場タイプと音圧タイプがあり、高域特性が異なります。マイク校正用のピストホンは200Hzで124dBが出るようモーターを回転させピストンを動作させます。騒音計は聴感補正にABCDの4種類の補正が有ったが、現在はA特性のみです。
スピーカとマイク用測定器には用途別区分があり、量産検査、品質保証、品質管理、設計開発。操作性、耐久性、信頼性、精度で違いがあります。
聴感検査用の正弦波発信器にはCR型を使用。ファンクションジェネレーターは奇数次高調波が多く使えません。
スピーカは極性が有り、前に動いた方が正(+)。そのための極性検査器があります。
ラインで全数検査するオーディオテスターがあります。これはラインピッチ4~5秒に対応して短時間に測定を終える必要があります。
スピーカの負荷試験用プログラム模擬信号発生器は定格、最大入力を決めるときに使用されます。以前は規格により模擬信号の特性が違っていいましたが、最近はほぼ同じになりました。
EIAはEIA-426Bという周波数スペクトラムの信号を使用しています。ダイオードの熱雑音を利用してホワイトノイズを作りそれをピンクノイズにして、さらに各規格フィルターにより特性をつくります。また2倍のクリッパーを通し実効値とピーク値の比率を2としてピーク値変動を押さえています。さらにクリッパーを4倍にしたものや、周波数帯域を100kHzにしたものもあります。
EIA-RC426B[は低域が30Hzまでフラットでかなりきつい規格です。電子楽器、ゲーム音に対応したようです。コーン紙Fo測定器。ボイスコイル温度計。スピーカFo&Zeメーター。スピーカ負荷試験用タイマー装置。プログラムステップアップタイマーなど様々な測定器がありますが、さらに目的に応じた測定器が開発されています。
音場測定では、F特、暗騒音、遮音度、残響、等の測定があります。
第38回 「PAのスピーカシステム・オプティマイゼイション」
オタリテックの増さんによる劇場でのシステムデザイン及びチューニングのお話しです。
増さんは、空間における音響システムの聴えの最適化を目指す”サウンドシステムチューナー“の草分け的存在。「増チューニング」と呼ばれる技術は芸術表現とオペレータ感性を尊重し両立させることが特徴。日本全国の著名アーチストのコンサートでの実績が凄い。
1.舞台音響システム
オープン形式(客席の一部に舞台のみが設置される)とプロセミアム形式(客席から見て舞台を額縁の様に区切る)をふまえ、
配置するスピーカシステム
*プロセニアムメイン
*サブウーファー
*プロセニアムサイド
*インナーフィル、フロントフィル、ディレイフィル
*効果用システム
などの設置位置、形状、音のカバーエリアなどの説明
2.スピーカシステムデザイン
基本的条件は
①多種多彩な音
②高ダイナミックス
③定位、リアリティー
④高明瞭度
⑤音響操作による音響演出
⑥演出空間への観客誘導
などの考慮
スピーカシステムを選択する場合
①サービスエリアの確定
②音圧の確定
③音質の確保
を考慮して行う
スピーカシステムを複数のスピーカで合成することにより
①指向特性の拡大
②音圧の増強
③再生周波数の拡大
が可能となる
(劇場内最大音圧は103dBとなるよう音圧での合成を行う)
3.スピーカシステムチューニングの基本
①スピーカシステム構築:スピーカの特性を考慮したチューニング
②音場補正:音響空間の特性を考慮したチューニング
の2種類がある。
ソース側(音響調整卓)はSound Art、システム側(スピーカシステムの音響出力)はSound Scienceをチューニングの指針とする。
チューニングプロセスはFFTを用いた測定と調整が基本。
スピーカ出力/プロセッサー出力
プロセッサー出力/プロセッサー入力
スピーカ出力/プロセッサー入力
の3つの伝達関数を算出する。これらを使用して補正用フィルター特性を作り出力特性が入力と同じになるように調整する。
4.オプチマイゼイション
各スピーカシステムのオプチマイゼーション(最適化)はスピーカシステムシステムの目的により調整方法が異なるが基本的には
・カバーエリア
・可聴周波数全体域の再生能力
・全体の音量音質
・高ダイナミックレンジ再生、高音質再生
・左右の定位
などを考慮して行う。(詳細は省略)
調整段階からリハーサルに移り、微調整が必要になる。また、測定マイクの移動、再補正、再確認を行い仕上げていく。
ショウタイムでは場内音響空間変化への対応が必要で、観客の吸音効果、場内の温度、湿度の変化がある。ショウタイム時のイコライジングは特別慎重に急変を避け徐々に変化させる。システムチューニング作業は、画材のキャンパス作りである。
チューニング技術は必須で、担う役割はますます大きくなる。
第39回 「イオンマイクロホン」
秋野氏(オーディオテクニカ)によるイオンマイクロホンのお話です
振動板のあるマイクロホンを長く開発してきたが、振動板という制約条件のないマイクロホンにあこがれ、放電プラズマを利用したマイク開発に挑戦した。
振動板を持たないマイクロホンは、①熱線型、②レーザー、③イオンの各方式が考えられる。秋野氏は、低温プラズマおよび高温プラズマの基本研究を行いマイクロホンとしての可能性を探った。
大気圧放電で発生させたプラズマを質量の極めて小さい振動板として動作させることによって音波を直接電気信号に変換する本方式のマイクは、収音帯域の限界と振動板の機械的性質による音質劣化の無いマイクロホンとなる。
高周波放電による高温プラズマは電極との間に静電容量が形成され、音波による静電容量の変化を利用した発信周波数偏移をFM検波し音声信号を得る。高温プラズマ全体が音波に応答し、リボンマイクロホンに比べ、高い周波数まで粒子速度に応答する。
電極構造と材料、および不活性ガスを適切に設計することにより、電極の消耗と雑音の発生を防止できる。
マイクロホンの音圧に対する応答は1/fの直線に近似し、音波の粒子変位の振幅に比例する。
高温プラズマによる方式では、電極材質・形状・表面処理、変調周波数の調整、外付けホーン付加などS/N向上の検討を行い、200Hzで78dB、1kHz で70dBのS/Nが得られた。
一方、低温プラズマによる方式ではノイズレベルが高くマイクとしての特性を得るのが難しかった。
第40回 「コロナ禍と音楽」
元ソニーOBの中島氏にYouTubeの最新情報をお話しいただいた。
1980年頃、アルビン・トフラーの名著「第三の波」で、やがて誰でもが出版社を通さずに自分の作品を発表出来るようになると予言しました。
そのYouTubeは音楽分野でも最大で強力なメディアとなりました。2019年末から現在まで猛威を振るっているコロナ禍でも、You Tubeがプロの音楽家に欠かせない存在になっています。
You Tubeの一番良い特性は上限20kHz、ダイナミックレンジ100dBほどになっている。You Tube画面上で右クリックし、Stats for nerds(詳細統計情報)を出すとコーデック情報が見られ、解像度、ビットレート、高域上限などが見て取れる。
例えば、Vp09は映像コーデックで(248)は解像度1080pを示します。
Opusは音声コーデックで(251)はitagと呼ばれる分類数字で、ビットレート160kbps、高域上限20kHzであることを示します。
Vp09とopusのデーターは独立したストリームでwebmと呼ばれるコンテナーに入れられています。
Mp4の音声ビットレートは最高128kbpsで上限周波数は16kHzです。Opusもmp4aもいわゆる不可逆圧縮で元データーと聴き比べると音質の劣化が認められることもありますが、opus(251)であれば十分です。
後半は数々のYou Tubeからの素敵な音楽配信の紹介がありました。
第41回 「バイノーラル録音と最新収音機材について」
稲永潔文 (サザン音響㈱)
稲永さんから最近のバイノーラル録音の例、ASMR収音、骨伝導収音、ウオーキング収音などを紹介いただきました。
初めにハイレゾ・マスター録音での録音例を紹介。ついで、横浜での国際仮装行列でのパレードの動く音がバイノーラル録音で効果的との紹介がありましした。
バイノーラルの最新動向として、ASMR「Autonomous Sensory Meridian Response」呼ばれる、ささやき声、耳かきの音など「身体がゾクゾクとする音」が録音されることが多く、これを収録した動画がYou Tube等に数多く投稿されていて、いくつかを紹介された。
バイノーラル録音の装置として、耳の部分のみで顔(頭)が無い物が示された。ダミーヘッドを町中に持ち出し録音すると、注目を集めすぎるので、それを避ける目的で作られた。バイノーラルは動く音源が得意なので、収音部分が動かないようなスタビライザーを付け工夫する。音ブレがあると頭内定位しないので避ける必要がある。
今後は映像と共に収音し、視覚情報付加による前方定位改善をする。スピーカ再生ではニアーフィールド再生を推奨して、クロストークを無くす工夫をするなどの改善が必要となる。
第42回 「デジタルソース再生のノイズ、音質改善」
JION の宮下さんにデジタルソースの音を良くする基本対策についてお話しいただきました。
デジタルソースは高周波ノイズの影響を受けやすく音質に影響するので、各種の対策が有効となる。CDも開発当初はLPに比べ音が硬い等の評価もあったが、再生機材の改善やノイズ対策により、アナログソースより安定していて良い音で再生できるようになってきました。
ハイレゾフォーマットだから音が良いということだけではなく、環境を整えればCDでも十分良い音で再生できる事が確認されている。
電源のノイズ対策、USB DACのノイズ対策、特にPCでUSBケーブルを使用して外部DACを用いる場合のケーブルのノイズ対策などが必要。
電源のノイズ対策としては、アイソレーショントランス、コモンオードチョークコイル、ファインメットシートによるノイズフィルター、マグネット磁界によるフィルターなどがある。
DC電源の場合も同様にリップルフィルター、コモンモードチョークコイル、ファインメットシートフィルター、マグネット磁界フィルターなどを施す。
機器内部のノイズ対策はファインメットシートやファインメットビーズを信号ラインに装着してインダクタンスによるハイカットフィルターによりノイズを低減する。
PCのUSBバスパワー5V電源は高周波ノイズが多く含まれている。USBケーブルはデジタル信号線とバスパワー線が平行しているためノイズがデジタル信号線に誘導され、デジタル信号が変調される。この結果音の明瞭度や力強さが劣化する。
USBケーブルは出来るだけ短くするのが良い。
FIDELIX製HiFi USB Noise Filterでバスパワーを切り離してクリーンな電源と入れ替える方法もある。
マグネットノイズフィルターはトンネル磁気抵抗効果を応用したものです。MNRは複数個の強力なマグネットで磁界のトンネルを作り、中心に電力線を通過させることで、メイン電流はそのままで、重畳する高周波ノイズ成分だけを磁界と電気石を使い熱に変換して消滅させます。
磁界によるノイズ低減に関しては、High Fidelity Cables(USA)にも説明があります。
You Tubeを良い音で再生する方法とCD再生でデジタル出力が付いている場合の外部DAC使用による良い音再生方法の紹介
PCで再生する場合、標準でインストールされているオーディオ処理ソフトよりも専用ソフトを使った方が良くなることがある。ただし専用ソフトはOSのバージョン制限や、有料の場合がある。
デジタル音源ソフトは公称フォーマットと実際のデータの内容が不明確な場合があるので、波形の見えるソフトを使用し確認するようにしている。
主なものは、
1、Studio one 3、
2、DAC ADI-2 pro、
3、Musicscope-Music Analysis Softwareなどです。
なお、3には、
オーディオ形式:Flac ,WAV ,MP3 ,DSD 、
ビット深度:16,24,32ビット、
サンプリング周波数:44.1~384kHz, DSD64&128、
真のピークメーター:ピーク、RMS、クレスト、PLR、
ステレオメータ:ベクトルスコープ、バランス、相関メータ、など非常に多彩な機能が盛り込まれています。
You Tubeを良い音で再生する方法。
TV受信機ではTVのスピーカの性能で音質が制限される。PCを利用して音声信号をUSB DACを経由し外部スピーカで再生すると音質はかなり良くなる。
Amazon Fire TVを用いると、本体がPCやTVから切り離されノイズの影響が少なく、対策も取りやすい。小型のケースに納められているので放熱対策も行っている。
付属のHDMIアダプターにファインメットを付けノイズキャンセルしたり、ケース外側をカーボンフェルトシールドで包んだりしている。
Amazon music HD、SONY mora qualitas、Apple Music、Softify等のストリーミング音源は最近音質が向上し、ダウンロードメディアと音質の差が無くなってきている。
これらを良い音で再生する場合の注意点は
1、WiFi環境を整える、光回線がより有利
2、WiFiで動作不安定な場合はPCに直接LAN Cableを接続する。
3、LAN Cableやスイッチングハブの回線にノイズ対策が効果的。
LAN回線のノイズ対策は
1、シールド付きケーブルを使用する。
2、LANケーブルにラインアイソレーターを使用する。
3、ハブをオーディオ専用とする。
4、オーディオ専用のノイズ対策を行っている機材を使用する。(English Electric[8Swish].BUFFALO,DELA等)など。
PCを使用しない再生方法の例として、IO Data SoundgenicはHDD内蔵のネットワークサーバーでUSB DACと組み合わせてネットワークプレーヤーとして動作できる。
そのほか、光伝送デバイスTosLinkを用いてノイズ侵入を防止する。長く引き回す場合に特に有効で、高額な光ケーブルを用いなくてもノイズ対策効果は得られる。
第43回 「プリアンプ アナログは永遠か」
元アキュフェーズ㈱の高松氏に、モノ作りとしてのオーディオの企画デザインからお話しいただきました。副題は「アナログは有限か」で、オーディオに対するデジタル技術の意味を問いかけています。
高級志向のベンチャー企業「ケンソニック」としてスタートし、技術力に裏打ちされた独自性、市場に見合った企業規模、存在理由の明確化、オーディオマニアによるユーザー指向の技術集団、社員のための会社作り、技術革新に如何に対応するか、21世紀のオーディオ展望、などを大切にしてきました。
ハイエンド・オーディオのモノづくりとして、高性能、高信頼性、独自性、ブレないデザイン、10年スパン計画、時代の変化に敏感、サービス性、身の丈計画、社員尊重の会社、などがモットーです。
製品企画は、ステレオは音楽を聴く機械、自分が欲しい物、最新技術を取り入れる、オカルトには走らない、車、カメラ、ステレオの共通項を考える。
製品開発については、アウトソーシングはしない、担当者が全てに責任を持つ、―――最後に初期販売サポート、クレーム対応まで。
代表的な技術としては、ボリュームコントローラーの高性能化、切り替え回路のリレー化、Conductive PlasticsによるVRの改良、アルミハウジング、バランス伝送、DAコンバーターを使ったAAVAによる驚異的なS/N比。
大切にしたモノづくりは
1、Imitation ⇒ 2、Improvement ⇒ 3、Innovationへの進化。
特にAAVAは信号経路に抵抗が無く、雑音レベルが低く、周波数特性が一定、切換えはデジタルで行い機械接点が無い、16ビットの細かさでレベル設定が可能、正確な利得で設定・表示が可能、L.R単独設定などの特徴を持つ。ただし構成部品が莫大となった。
将来については
・10年後の世界がどうなっているか?
・技術の進化は?
・ハイエンド・オーディオのアナログは?
・現在の映像や音楽のアーカイブはどうなるか?100年後に使えるか?
などがテーマと考えている。
第44回 「手作りコンテンツによる未知体験の試行と公開について その2」
武蔵野メディア研究所の田中氏に、活動内容とコンテンツのデモ、コロナ禍での活動など紹介いただきました。
活動は、高速ネットワーク、最新デジタル技術を活用してみる試みで、また大容量個人ホームページによる商用Webサービスなどに応用される。コンテンツの特徴は、①大容量ファイル、②オリジナルファイル、③バイリンガル対応、④ダウンロード可能、⑤無料 となっており、見て・聴いて・試していただきたいとの思いからである。
1ビット録音は、生録音でオーバーレベルに強い、小さな音もキレイに録音される特徴があり、高度な技術だが簡単に使え、使いやすく、コモディティー(普遍)化をさける一つの方法ではないか。また、ハイレゾは周波数帯域だけでなく、解像度の向上にも注目すべきとの指摘があった。
LINUXはサーバー(データーセンター)では使われており、流行ると何回か言われてきたが現状はWindowsまたはMac OSである。しかし、Windows11のハードウエアスペックは厳しく、世界中のオフィスにあるPCの半分が対応できない。
オンラインコミュニケーションは色々のバリエーションがあるが、その時の問題点として声が聴きとりにくい、発言が重なってしまう、相手の反応が分からない、資料しか見えない、途切れたり切れたりする、などがある。また改善ポイントとして、静かな環境の確保、十分な性能の機器、安定した回線、情報量やモニターの必要性、などがある。マイク/カメラを別デバイスにしたり、サブモニターで全体を見たり、さらには複数のデバイス/モニターで全体を俯瞰するなどの工夫をしている。
皆様からの反応、要望としては、「コンテストに応募するのでビデオファイルを送ってほしい」、「演奏会での演奏を録音、録画して欲しい」、「このような録音、録画をしてみたい」、「朗読をCDにしたい、方法を相談したい」などが寄せられている。
第45回 「マスタリングと新スタジオ」
studio Chatriの田中氏に音楽制作現場の経験と実績にもとづいたマスタリングの面白さや難しさのお話をしていただきました
CDやレコードを量産、配信するにあたって、さまざまな環境で録音、ミキシングされた音源の音量、音質、音圧、バランス、曲間などを最終段階で調整し原盤に固定する「マスタリング」作業に国内におけるパイオニアとして尽力され、アーティストの意を汲む一方で、リスナーの視点も大切に取り組んできた音作りは多方面で称賛され、音楽産業におけるマスタリングエンジニアの重要性、またそのクリエイティビティに衆目を集めた功績は大きいとされている。
<以下田中さんのコメント>
マスタリングは音楽を商品化するための音楽制作の最後の工程です。レコーディングとは異なる目立たない技術にもかかわらず評価をいただき、驚きと感謝を感じ しています。最近は音源をPC上でミックスできるため、100以上物もの音を個々にコントロールできます。それゆえこのミックス作業をマスタリングと同時進行させる手法を研究しています。今後も作業効率や生産性にも目を配り、作品の創造範囲をより広げる可能性に挑んでいきたい。
<事務局>セミナーでは studio Chatri の施工について概説いただいた。
遮音の取れているしっかりとした壁で囲われた場所に、空気層を適度に分散配置し重量のあるガラスウール吸音材で囲んでいる、(この施工に関しては過去の氏の経験が生かされており、単に図面、写真を見るだけでは多分成功しない。何よりも完成途中での音の確認作業での判断は素晴らしい)
モニタースピーカとして、JBL S143の改造を紹介。防振ゴム ”ラブロック“。スピーカケーブル Woofer用 日立電線OFC同軸。ドライバー用スピーカケーブル ノイマンのマイクケーブル、カルダスfor BGM ドライバプラス側にパラ接続(芯線は2本・リッツ線)。
サラウンドチェック用サブスピーカはONKYOのシスコンSPを改造。ウーファー周辺にグラスウール温水パイプ用をカットして配置。高域コンデンサーをVIMAからERO 1μ変更。ウーファーに特殊樹脂塗布。
<再び田中さんコメント>
最後に
音の判断基準に時代ごとに蓄えた曲が20曲ほどになる。それを聴いて自分として常に感動するということ。もしその中に1曲でも、聴いて違和感がある場合はそれが何かを考えながら、部屋の音響やスピーカのチューニングを見直す。
音楽制作はレコーディング、ミックス、マスタリングそれぞれ分業。もし完パケマスタの音が素晴らしく、レベルもそのままか1~2デシベル位の補正で済むなら、手を加えることなくアナログに戻さなくてもデジタル上の変換だけで済むかもしれない。
マスタリングは出来ることが限られており、特に個々の楽器の音などの調整は不可能。
そこで考え方を変え、マスタリングスタジオでミックスとマスタリングを同時に進行すれば、この問題は解決できる。10年以上前からこのやり方を時々実践。ミックスの手順は、背景からつまり一番奥に位置する音から順に、コード楽器、ドラムもオーバーヘッドから、一番最後にベース。そして出来るだけ後戻りしないように着地点をおさえる。オートメーション(ボーカルレベルを細かく調整する)もミックスの途中で簡単に調性する方法がある。口頭での説明は難しい。
興味ある方はデータを持参ください。極めて簡単。スタジオマスタリングについてさらに詳しくお知りになりたい方は、ご連絡ください。
第46回 「モニタースピーカ」
JIONの宮下氏と沢口音楽工房の沢口さんに現行NHKモニタースピーカRS-N2について、開発までの経緯、選考経緯と客観的音質評価などの詳細についてお話ししていただきました。
NHKでは標準モニタースピーカの2S-3003が生産中止となり次世代のスピーカを必要としていた。モニタースピーカを扱っているメーカーに選定会のオファーがあり、フォスターとして参加した。
選定に関し,当時のNHK制作技術センター長の沢口氏に説明頂いた。NHKの関係者以外は入出禁止の部屋で、完全ブラインドで比較選定された。
標準スピーカは
・音色、バランス、レベルの音声要素全ての判断基準となる「測定器」的要素を持つこと
・単に心地よい音を再生するのではなく、ひずみやノイズも忠実に再生できること
・特定のジャンルのみに性能が適しているのではなく広範囲な音声制作番組に対応できること
・人の声とその他の音楽、効果音などとのバランスを的確に判断できること
などが要求される。
これらを満たすためにRS-N2 に用いられた要素技術は以下の通り。
①ウーファー、ミッド用「バイオダイナ材」
バイオダイナ振動版は、1.木材パルプ(NBKP)、2.非木材バナナ、3.強化剤(超高弾性カーボンファイバー)、4.強化剤(PBO繊維―ポリパラフェニレン・ベンゾフィール・オキサゾール)、5.パールマイカ、6.ダンピング材(スーパーセルガイヤ繊維)、7.マトリックス材(バイオセルロース)。8.防湿・結合剤(EPCラッカー)を使用し複合された物性は金属に近い伝搬速度で紙に近い内部損失が得られている。
伝搬速度:4380m/sec
内部損失:0.048
エッジはU.D.R.T形状(アップダウン・ロール・タンジェンシャル)を開発し、材質はエーテル系ウレタンフォームで湿熱劣化の耐久性も優れている。エッジの加速度応答FEMモーダル解析や荷重・変位特性FEM解析なども行い設計を追い込んでいる。
振動版とエッジの組み合わせでもFEMモーダル解析を行いエッジ共振時のピーク特性が大きくならないよう配慮している。
②ツイータ―用「純マグネシウム材料」と成形技術
20㎜リッジドームツイーターは純マグネシウム材リッジ形状で、ボビンはPPTA(ポリパラフェニレン・テレフタラミド)を使用し、銅銀合金線を使用している。リッジドーム形状は特定の周波数に共振のピークが生じない形状となっている。
③Hyperbolic Paraboloidal(双曲放物面形状)振動板
HP曲面は2方向の直線と双曲線(Hyperbolic)さらに放物線(Paraboloid)で構成される。したがって各要素の直線には剪断力(ずれ応力)のみが働き曲げが生じない。そのため軽量でありながら強い構造となる。ねじれた曲面は同じ面積の平面に比較して固有共振の周波数が高くなり、各モード間隔が狭くなり、細かく分散共振するので特定の周波数に大きなピークを生じない。ピストン領域では形状剛性を高くとることが出来るので振動版にたわみが生じ難く低音域での量感が低下しないなどの特徴がある。
③磁性流体による「コルゲーションダンパーレス構造」ミッドレンジ
④エンクロージャー関連技術
キャビネット材料、制振材、バスレフポート、ネットワーク部品等細かい配慮がされている。。
⑤パワーアンプとネットワーククロスオーバー、他
総合特性は、再生周波数±3dBで40Hz~45kHz、-10dBで22Hz~(60kHz)
デジタル世代対応モニタースピーカとなっている。
第47回 「難聴と補聴器」
リオン㈱の津田氏に聴覚と補聴器に関して、聴覚器官の構造と機能、難聴の特徴、難聴を補助する補聴器の機能、補聴器の歴史と移り変わり、補聴器の種類 について詳しい説明をいただきました。
中島さんがJASジャーナルの記事で次のように書かれている。「20年前の機械と比べ音の質も装着感も抜群に良くなっている。これで脳も元通りに働いてくれる。しかし、体内音や周囲雑音が出てくると補聴どころではなくなる。脳をサボらせない工夫をしないと認知症なりかねない。」
難聴には、外耳,中耳で起こる伝音難聴と、内耳で起こる感音難聴がある。低下した耳の機能を補助する補聴器の動作として、感度低下の閾値上昇のための増幅、抑制機能の低下のためのノンリニア増幅や出力制限・衝撃音抑制、静寂下での明瞭度低下のためのSSS(サウンドスペクトルシェイピング)、雑音下での明瞭度低下のためのノイズ抑制機能・指向性制御などが用いられている。
年齢とともに男女ともに高い周波数になるほど聴力が低下する。また、大きな音はより大きく感じるようなレベルによる感度の違いが生じ、ノンリニアーな補正が必要なことがある。体内音、周辺雑音が聞きたい音の邪魔をすることに関しても、補聴器専門店で相談すれば解決できる可能性は高くなる。
補聴器は形状、音の伝達方式、音の処理方法等により分類される。形状ごとに価格、操作性、目立ちにくさ、電池交換、電池コスト等違いが出る。
衝撃音抑制機能は不快感の低減を目指している。定常雑音の低減にもノイズ抑制機能でS/N向上を行っている。指向性機能や指向性を自動調整する機能なども盛り込まれている。
中島さんが実験されていた、耳がね(耳に手を当てる)効果なども昔から検討されており、いくつかの例の特性を示された。また、脳をサボらせない工夫が必要との意見に対しても、対話の機会を増やすことの大切さが認知症予防ケア委員会報告でされている。
難聴で認知症が増える可能性に関し、ジョンズ・ホプキンス大学のフランク・リン博士らは①社会的孤立、②認知的負荷の2つの可能性を指摘している。
質疑応答では
・ロックコンサートでの一時的な難聴の経験があるが、今は直ったと思う。
一次的な難聴は治ったつもりでも治っていないこともある。
・難聴の検査では昔は音が聞こえるかどうかのチェックのみであったが、位相やパルスの検査もこの10年で行われるようになった。
・オーディオを楽しむための補聴器は考えられるが投資が必要。
・耳鳴りが聴力損失を補おうとする働きという説もあるが未解明。
第48回 「音場の創生」
高松重治 (元アキュフェーズ)
高松重治氏にオーディオをより楽しむためのデジタルイコライザーを使用した音場補正についてのお話をしていただきました。
初めに、レコード演奏家論として菅野沖彦氏の話からスタート、ついで40万積の考察から周波数帯域の分類を説明。過去の伝送メディアの帯域を説明し、必要帯域を確認した。
講師使用機器は
EQ-amp:C27, Pre:C3800, Digital-EQ:DG58, Digital-Divider:DF55,
Power-amp :A35,A45,A65,
Tweeter:SG16TT, Squawker:SG555BL, Woofer:DS-V9000用, Sub-Woofer:CW250A 。
デジタル・グラフィック・イコライザーは
・左右バランス補正 ・部屋の音響特性の補正 ・トーンコントロール補正 ・マルチスピーカの各ユニットのつなぎ補正等が目的。
音響測定にはDSSF3(吉正電子)ソフトを使い測定。音場測定器 DG-68 でも確認。
ステレオ装置の左右レベルは重要で、周波数変化によるステレオ定位の変化に大きく影響する。モノラル音源をステレオ装置で再生可能かについても考えさせられる。
計測マイクの位置により音圧特性は変化するので、どの位置を基準にするかもオーディオ再生を考える上で大きな問題。
その他時間軸の測定もしている。
第49回 「マルチスピーカシステムの構築」
高松重治氏に、アナログ処理ではなし得なかったデジタルの周波数・デバイダーの構築についてお話しいただきました。
スーパーローの必要性:サブロースピーカにCW250Aを使っているが、遅延時間が30~40msと他の帯域より大きい。正確な原因は不 明。
超スーパーツイターは必要か:人が感知できる高域上限は不明。過去CDの再生帯域を20kHzに制限したことは環境生理学的に間違っている、との批判があったが、私はうまく決めたと考えている。空気中の音波の伝搬ロスや、人の聴覚の能力などを考えると、超高域はどこまで必要なのだろうか?
ALTEC-A7のパッシブネットワークの研究から、ネットワークL分の調整が大変なことを学んだ。 結論として、シングルアンプにネットワークを使う方式ではなく、マルチアンプ方式の方が良いと考え周波数分波器を商品化した。はじめはアナログ方式だったが、切り替えノイズ対策に苦労した。その後デジタル化を行いDF55を商品化した。
石井伸一郎氏のリスニングルームの音響学を紹介し、室内音響の計算ソフトの紹介もあった
各帯域のフィルター特性とLOWを基準としたディレー距離を算出。
設定の方針は
・各ユニットのHPF,LPFの周波数設定
・大まかな測定をし、各ユニットの遅延時間設定
・クロスオーバー周波数付近の暴れが少ない組み合わせを探す
・各ユニットのHPFとLPFの減衰量を設定
・LPFはなるべく急峻カーブを選択
・LPFのステップ応答を考慮
・HPFはクロスオーバーの暴れ具合から選択
・各チャンネルの絶対位相を、クロスオーバー付近の暴れ具合から選定
・各チャンネルの利得を合わせる
・各ユニットの大まかなレベル合わせ
・RINKAKU測定のゲイングラフを使う または、DG-58
・あるいはDSSF3を使う
・取敢えず全自動で計測しレベルを確認
・DG-58 の各チャンネルまたは各パワーアンプのゲインを合わせる
・このレベル合わせで、音質は大きく変化する
考察
測定距離は1m
・高い周波数では5~6mマイクが離れると測定できないのでは?
・WFはキャビネットの中の音がコーン紙を通して外に出てくる
・リスニングルームの音響特性はデッドではだめ。日常暮らす場所で音を出すべき。
良い点は
・無理な低音ではなく、自然な低音の再現
問題点は
・Sub Lowの遅延時間が大きいので映像と音声が合わなくなる。自作を考慮。
・遅延時間合わせを入れる
・計測マイクの位置の検討
・居住空間での測定のむつかしさ。 30kHz の音は5~6m離れると聞こえるのか_
(測定できるのか)
・フィルター次数の見直し 急峻な遮断特性は遅延時間が大きい
・3D方式の低音再生について 重低音の方向感は存在する
疑問:ステレオ装置でモノラル音源を再生できるか
自由討議
・TWのハイパスフィルターのカットオフが3.2kHz、12dBで切ってホーンロードがかからない帯域の信号が入るが大丈夫か?
→ 遮断特性の傾きでディレーが異なるので、確認しながら決めている。
・サブウーファーの遅延時間が大きいのに興味がある
・ステレオ装置でモノラル音源を聞くことに無理がある。
モノラル音源は片方のスピーカで聞くべき。
・1mで測定時、上下方向のマイク位置はどこか?
→ スコーカとTWの間
・ホールの聴取位置で特性をフラットにするとうるさくて聞いていられない音になる。
聴取位置ではハイ落ちでちょうどよいのでは。
聴取位置でどのような特性なら気持ちよく聞こえるかが、高松システムのこれからの研究課題ではないか。
・ザルツブルグ教会での話。パイプオルガンの音は指向性を持つ。
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パイプオルガンの基本周波数は低い音だが、高調波成分がかなり含まれている。100Hzの音を出しても倍音が出ていて、指向性を感じている。
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パイプオルガンは基本の音に矩形波を掛け算したような音。音が立ち上がる時に高調波が出る。音の立ち上がりと消えるときに方向性が良くわかる。
・特殊効果の時は別だが大口径ウーファーはスピード感が劣る。小口径をパラにする方が良い。
第50回 「オーディオ四方山話」~所有機材の有効活用および音源紹介
高松重治 (元アキュフェーズ)
講師の現役時代には、製品紹介時に音の良さを確認いただくのに様々な音楽を聴いていただきました。今回のセミナーでも、話を楽しく進めるために音楽ソースなどについてもいろいろなお話しをしていただきました。
バイオリン:Wilfried Kazuki Hedenborg氏
BEETHOVEN Violin Sonata Op.24 “Spring”
WilfriedKazuki Hedenborg /Yasuko Mori 2021 年
Track4 春第一楽章
品番: CMCD-28383
講師の試聴室は半地下で、できるだけ生活環境であることを意識した設計。内装は石膏ボードに壁紙。なき竜を抑えるため額で調整。
部屋の高さは3m以上を推奨。3.5m以上にするとほとんどのことが改善される。
・人が住める環境が必要
・部屋の隅に低音が溜まるので処理が必要という意見にはどうかな、と思う。
・大ホールの上部の透明反射板は個人の家には合わない。
・リスニングルームには奇をてらったものは置かない方が良い。
・リスノングルームは吸音しない方が良いと思う。
・拡散棒を配置するのは価格と設置で大変。
・定在波は必ず発生する。
・石作りのホールは反射が多いが、聞いているうちに慣れてくる。
・試聴室の気温はちょっと寒いくらいが空気が密になり良い。
ドボルザークシンフォニーNo9 CD:Decca UCCD-7005 LP:London SLC1337
J.S.BACH 平均律クラビィーア曲集第1集 ARCHIV MAF8072/6
使用プレーヤーはMELCO ターンテーブル20㎏。それをすり鉢状に1㎜位削り、レコードを1㎏の重りで抑えてプラッターに密着させる。カートリッジはマイソニックラボ製。レコード再生時には±イオン発生器で静電気除去を行っている。
ワグナーのラインの黄金 CD:LoNDON SLC7085/7 LP:DECCA 478 0382
録音に7年かけ、現在では考えられない金額を録音に費やした。同一音源のSA-CDもある
JASの録音コンコンペティションではほとんどがProtoolsを使っている。アナログ録音があっても良いのだが。
GULDA As you like it MPS 21 20731-5
製作過程でNRは使われていない。再生時ヒスノイズは聞こえるが再生音はとても良い。
録音でNRとマルチマイク方式が使われてから、LPの音が悪くなった。
マルチマイクでそれぞれの音が干渉しあうというデメリットがある。
アーメリンクとボールドウィンのシューベルト 音楽に寄せて
CD:PHILIPS 410 037-2 LP:PHILIPS 6514 298 West Germany 1982
このレコードは何万回と聞いた。LPレコードにはデジタルレコーディングと表記されている。一般的なアナログ録音より録音レベルが12dBくらい低い。ピークでも音がひずまないようにしたためだ。
CANTATE DOMINO Proprius ART002 1976 LP/CD/SACD
ボーナスシーズンにメーカーはオーディオ商品をたくさん売った。春日二郎さんがそれを考えクリスマス関連のソフトとしてこのレコードを探してきてひろめた。NRをかけてない音で、豊かな低音が素晴らしい。日本のレコードでは低音が入っていない録音が多い。レコード会社の偉い人が入れるなと言ったとか?
カラヤン・アイーダ EMI DOR-0093 1979 45rmp
第一家電が莫大な投資をして制作した45回転レコード。高い周波数の再現性が高い。
使用器材 プリはC3800。性能重視モデルでボリュームに抵抗を使わないAAVA(Accuphase Analog Vari-gain Amplifier)方式。
菅野沖彦さんの考え。
「オーディオ再生の周波数特性はフラットを目指すのではなく、家庭の音響条件に沿って、特性をいじって良い。なぜアンプやスピーカはフラットでないといけないのか?」
パワーアンプ、CDPの話は次回予定
質疑応答
・ソースの違いを聴くにはスピーカからの音よりもラインアウト信号を使う方が良いのでは。
・残響時間の周波数特性はとっていない。
・高い周波数はイコライザーで調整できるが、低い周波数はコントロールが難しい。
特に125Hzあたりが難しくレゾネーターをトライしたが上手くいかなかった。
・リスニングルーム音響特性を調べるとドアの遮音度が低かった。