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 セミナー概要  第1回~第7回

第1回「スピーカを吊る」

中島さんの挨拶から始まります。

「私は1921年福岡県の生まれです。1947年NHK(日本放送協会)を振り出しに、オーディオをライフワークとして仕事を始めましたが、いつのまにか65年が過ぎました。

振り返ってみますと多くの先輩、同僚に助けられてオーディオ界にいささかお役に立てたかなとは思っていますがそれらが日の目をみるまでに数倍の失敗作があったことも否めません。

昨年会社の組織を離れた機会に、歩いてきた道を振り返ってみますと、まだやり残したことや、次の世代にやってほしいことがあり、その処理を足元の明るいうちにそのものが見える形にしておかなければと思い始め、ソニー時代に苦楽を共にした技術者数名でNHラボを作って対応することにしました。

過去の失敗例の反省をバネに、それでも何かきらりと光るアイディアを取り入れて、数台試作からコツコツと物作りを始めたい考えです。できうるならば興味をお持ちの方々にも試作品を試用していただき、楽しみを共有しながらものにすることはできないかなどを夢見ています」

続いて、音楽再生における不要な音(ノイズ)の見直しを行いました。

特にこの回は再生機器ではなく部屋に再生された音に付帯する、スピーカと部屋のノイズです。スピーカは元の信号に無い音も出してしまいます。スピーカのキャビネット、置かれた台、スピーカの構造からくる付加音などです。部屋も追加の音を出します。壁の音、入ってくる外部音、反射音。これらの付加される不要な音を整理しそれを減らす工夫について述べています。また、スピーカの近くで聞く近接試聴に有利なスピーカとそのメリットについても説明しています。

 

弊社の卵形状スピーカがなぜ音場再生に優れているか、近接試聴に向いているかについてデーターで説明しています。

 

次が大切な所です。中島さんが“スピーカの作る音場”について説明しています。

まずスピーカのひずみについて概説し、検知限とハイファイに要求される1%以下を提示しています、スピーカの発生するひずみの原因を図示し今後取り組むべき改善項目を明確にしています。本来動くべきではない磁気回路やフレームの振動例を示し、ここの改善が大切であると示しています。 スピーカの再生する音場についても説明し、直接音の中に、付帯する振動が隠れていることを図示しています。 

 

次いで、不要な振動を減らし改善するための例としてキャビネットの角を取り、特別な寸法比を使った卵形状を上げています。

音質評価に良く使われる音像や音質の言葉の定義をし、特に音質に関し”自然界に存在する音源(実音源)は聴く人に自然な感じを与える“と説明しています。音像の質と大きさについても図示し、それを変化させる原因を整理しています。部屋の空間での反射波と経路について言及し、特にスピーカ側を吸音性(従来のライブエンド、デッドエンドと逆)としフロント側の影響を減らすよう指示しています、音像の形成に関しても整理し図示しています。

 

第2回 「スピーカの中を覗く」

スピーカキャビネット内部の状態を分析しています。

 

内部音圧は低域で高く何らかの吸音処理が必要であることを示唆しています。キャビネット内部の音圧特性を示し、キャビネット形状や吸音処理の効果を見ています。

 

振動加速度の特性を示し、形状、材質による変化も見ています。 

 

次いでユニット磁気回路上での温度変化を示し、温度変化が少なくなるような特殊なパラフィンを使用した例を示しました。 

 

外部音圧の下でのキャビネット内部への漏れ音特性も示し、振動板を含めた場合の遮音特性が良くないことを示ました。遮音を良くするためには重量のある丈夫な壁面が必要なことを示し、また球形キャビネットではコインシデンス特性が現れない事を示しました。

 

スピーカへ入力されたエネルギーの内98~99%は熱になり、音以外の振動エネルギーとして流れます。スピーカのひずみについても再掲し、信号依存ひずみとして変調ひずみをとり上げ、大入力や振幅の大きな低域での歪の大きさを示しました。

第3回 「エージング」

中島さんが商品化の体験を話されました。

 

出来たばかりのスピーカを楽音で鳴らし続けて馴染ませる。その時の音源は楽音に限りノイズでは駄目である、どうすれば良くなるかについて科学的、定量的な物差しは見当たらない、自然界の”ゆらぎ“がヒトにかかわることの解明に役立つのではと考えている、などエージングの効果について現場での経験を説明しました。

 

良い音とは何か、人により好みで違うのか? 一方で、みずみずしい、甘い、歯ごたえが良い、等と言う感覚も有る。生の音は良い悪いではなく新鮮である。機器の性能は使用時間につれてエージング効果で向上する。スピーカの場合、お酒の場合、人間の場合。何を評価すれば良いのか? エージング用のCDも商品やデモ品として存在しており、これも例として挙げています。

 

楽音の振動を利用して、音楽を聴きながらその振動により熟成させるソムリエと言う商品を出し、その効果確認実験の紹介や振動加速度振動特性を示しました。参考にした各地で行われている振動によるお酒の熟成例の説明と官能評価、ワインの糖度変化等も紹介しました。また水分子のクラスターに言及し、化学構造的も概説している。密度測定、味覚センサー、香りセンサーなどを利用した評価方法にも触れています。音楽振動の効果が評価され、音楽の新しい利用が拡大されることが期待されています。

第4回 「スピーカとアンプの相性」

中島さんが経験した、1960年代の半導体事情から、2000年に入っての1ビットオーディオにまで触れています。

 

デジタルアンプに関しは、第一通信工業㈱から、半導体パワーアンプの音質向上にどのデジタル方式が大きく寄与するかについての説明された。同社はアポジー社商品の試聴がきっかけで研究が始まり、DSP内蔵、真空管アンプ愛好者からも評価いただける音、PCMやDSDなども検討し、特に真空管アンプとの類似性を出力電流と電圧の関係から考察し、NFの周波数特性、出力時の内部特性変化量に着目しゲルマニウムトランジスタを使用している。

 

デジタルアンプは負荷によりポストフィルター特性を変えなければいけない欠点があるが、設計方法で対応することで解決している。

 

電源はオーディオ用DC/DCコンバーターの技術を使ったオーディオ用スイッチング電源を使用している。

発表後の参加者とのディスカッションでは、デジタルと音質、PCMとDSD、電源と音質について議論した。

 

最後に中島さんから辛口の提言があった。

10μsに100dB変わるオーディオ信号に対応できるか? NFBをデジタル処理し時間的トレードオフを最小にすべきである。聴覚にマッチするレベル計/測定法 が必要で、正弦波のような持続波での対応からの脱却をもとめる。聴取空間では騒音、振動、誘導、温湿度などによる、他システムへの妨害、他システムからの妨害が多く、まだまだ労力と経費がかかる問題である。

第5回 「響きを探る」

室内音響設計から、室内音響調整用の拡散ボード、さらには響きと音像の相反するキーワードの扱いや、ホールの響きについて説明しています。

 

ホールの設計では、音の障害を無くす重点事項、全席への拡散、響きの音質の調整などが留意すべき点です。

さらにフラッターエコーのある場合の残響時間測定例も提示しています。 

リスニングルームの音響設計では、施主の好みを確認し、外部に漏らさない対策、基本的に避けるべき障害、調整、と必要事項を説明しています。音声伝送性能評価(STIr)の概略にも触れています。経験上も残響時間が短い方が音声伝送性能が向上する結果となります(オーディオ的にも音の細かい変化を楽しむときはデッドな空間が良いようです)。

 

音場の設計として、現場は専門の施工業者に任せるしかないのですが、使い手としての個人ができることが有り、拡散音場、吸音材の配置、スピーカのセッティング位置にコツが有ります。エコータイムパターンにより反射波の影響を示しています。

 

吸音拡散体が音を整理し静かな音になることを示しています。同時に吸音拡散体の効果を位相差スペクトルや両耳間相互相関係数でも確認。新しい評価方法です。ついでリスニングルームで注意すべき点を取り上げ、低音の吸音、ノイズの低減、拡散は良い響きの材料で行う事を提示。拡散ボードは吸音ボード+拡散体の構成を推奨しています。

最後に中島さんが全体を整理し、“響きと音像”と“良い音”は相反するキーワードであることを指摘し、家庭で音を楽しむ時の大切な留意点としています。その関係を表で示し、直接音から20~30msまでの1次反射音とそれ以降の消滅までを別に考慮すべきと示しています。また音像と豊かさを分離してコントロールするのがベスト条件と締めくくっています。ホール容積と残響時間の分布、大ホールの拡散板の様子、反射音線図も示している。最後に家庭の試聴室に触れ、部屋寸法の8x5x3比率、発音側のデッドエンド化、聴取側のライブエンドを明確にし、鮮明な発音音像と聴取位置での響きを両立させる方法を提示している。

第6回 「デジタルを探る」

中島さんにデジタルの生みの苦しみから次の一手までお話しいただきました。

 

早くから通信の世界でPCMは将来性を見て進められていました。1963年に日米TV宇宙中継の成功によりデジタル通信に移行していきました。しかしオーディオ信号のデジタル化となるとなかなかOKがでない。試作機は大きく、重く、高く、操作性が悪く、良いのは音だけ。この欠点を解消するのがデジタルと説得。次にくるデジタル時代に向けての“中島さんの挑み”がその後の“CDの生みの親”と言わせた情熱に繋がります。家庭用ビデオデッキのPCMアダプターやデジタルソフト制作システムなどを発売し、周辺を固めていきました。

 

オーディオのサンプリング周波数はビデオ信号との関係で44.1kHzと決まっていきました。20世紀後半から半導体メモリーの記録容量も確実に伸び固体メモリーによるオーディオを期待させました。光ディスクで先行していたフィリップスとデジタルオーディオで先行していたソニーがその傘下ポリグラムとCBSでソフトシェア60%弱となることで手を結び開発をいそぎました。CDでの信号読み取り時のランダム、バーストエラーに対処するための誤り訂正に苦労しながらすすめました。

 

オーディオデータはリアルタイム再生ですので、演奏を止めずに補間で対応。コンピュータデータはリアルタイムで無いので、誤りが無いか有るかの2択で補完は出来ない。CDのサイズはSONY30㎝、16Bit, フィリップスは11.5㎝,14Bit。変調方式も訂正方式も違っていたので調整に難航。この時の苦労がその後も生きDVD,SACD,BDではさらに強力進化しています。レーザービットの読み取り深さもそれぞれ違っている。その後CDファミリーが発展していきました。

 

ハイレゾを楽しむために大事な点は何処なのか探ってみました。

デジタルと言えども最後はアナログですのでオーディオ的な?音を良くする工夫は大切で、振動、電源が大切になります。主な原因はジッターにありますので時間的ゆらぎが問題になります。ハイレゾを何処までやれば良いのかも大切な点です。そもそも音の急激な変化に十分対応しているかですが、10μsで100dBもの変化を考えると厳しいようです。

 

デジタルはダイナミックレンジが広く、周波数帯域も広くなりますが、可聴帯域をはるかに超えたレベルと、周波数は必要なのでしょうか?可聴帯域に合わせて上限で一致させて眺めて見ると深さ方向に余裕が有るように見えます。ハイレゾの音が緻密で、音場感が増し、エコーが良く聞こえ、柔らかく聞こえることを考えると、大きな音のダイナミックさよりも、小さな音の変化が大切に見えます。先ほどの瞬時に大きく立ちあがる信号を考えてサンプリングが十分か見てみると、もっとハイレゾの必要性を感じます。

 

PCMが良いのかDSDが良いのかの議論は尽きませんが、ひとまず置いておいて、中島さんは次の一っ手としてさらなるハイレゾか?実像再生か?時間軸を音楽波で覗きますか?と提言している。どこに定位させるかの両耳間音圧差と位相差は分かっています。基本のマイク設定も分かっている。しかし、音源数が多い場合のミックスダウンが問題。スピーカ解析における正弦波と楽音波は全く違う。オーケストラ演奏音のスペクトル分布でも高域でのピークファクターは非常に大きいです。

 

最後にスピーカを意識させない、振動でワインなどを美味しくするMusic Tray装置を紹介しました。

第7回 「キーパーツを見直す」

中島さんが3つの物差しを示しました。

 

眺めて:流れるような曲線、叩いて:透明な打音、触って:暖かい感触。 ひずみを非直線ひずみと音場ひずみと信号依存ひずみに分けて示しました。 卵スピーカを例に挙げ、振動支持系、振動対極、振動系と分けて対策を考えるとし、特に振動板とキャビネットの平滑化やキャビネットの変形球殻が有利であるとしています。ステレオ音像については実像と虚像の問題を示し、パッシブな虚像の実像転換を提案した。左右の壁での反射波はLRが逆になる成分が有り壁面傾斜や拡散体でコントロールすることを提案しています。短時間でも楽音のレベル成分は大きく、高域に向かってのピークファクターの大きさについて再度示しています。

 

次いで振動板について材料から制作まで概要し微細構造にも触れています。密度とヤング率分布図、ヤング率の周波数特性と内部損失特性も示しています。新しい環状高分子材料:スライディングマテリアルの塗布効果を示し高域の特性改善効果も示した。また振動板材料の温度変化も示している。相変化材料による定温化の例を示しています。

 

キャビネットの遮音特性向上についても触れ、キャビネットの場合、通常の質量則と同時に構造からくる剛性も考慮すべきと説明した。また曲面板の振動モード減少と各共振での損失のアップを示し、曲面構造の優位性を示した。支持系のリニアリティーについて、支持体の形状、変形量の場所による変化を示しました。支持系で注意すべき点を整理しました。キャビネットの回析効果についても触れバッフル形状、指向特性、バッフルエッジ形状、最初の谷特性の周波数図を示しています。

 

吸音材について、粘性によるもの、熱伝導と熱輻射によるもの、分子振動による吸収の三つを挙げ、吸音材による周波数特性の変化を示しています。

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