top of page

 

 セミナー概要  第27回~第36回

 

第27回  「中島平太郎さんの思い~音との付き合い70年」

  2017年12月9日に他界された中島平太郎さんのご遺志を受け継ぎオーディオを関係者でどうしていくか振り返りました。

 

   NHラボの新代表中島晃から今まで通り続けていくと挨拶がありました。

 次いで中島さんが最近残されたメッセージ12ほどを見直してみました。

今までNHラボにご協力いただいた方々から中島さんを偲ぶお言葉を頂きました。

NHラボメンバーも一言挨拶をさせていただき、今後もオーディオ界に貢献することを誓いました。

また、別途中島平太郎さんを偲ぶ会の企画中であることを紹介しました。

第28回 「NHラボの最新情報」  

 

 中島晃代表のメーセージと平太郎さんの思い、たまごスピーカ、セミナー今後の紹介です。

 

 中島さんの書かれた「次世代オーディオに挑む」を参考に、デジタルオーディオの流れ、中島さんがトライしたハイファイスピーカ、さらには人間の感性について振り返りました。

 

   1966年NHKの林さん、中島さんと早稲田大学の山崎、穴沢、中河原さんが共同で研究開発を行い実験機を完成させた。その素性の良さに皆が震えた。

   1968年NHKの公開でお披露目し大盛況。それでもオーディオのデジタル化はNHKでは難しいと断念。

   その技術をもって穴沢さんが日本コロムビアへ就職。中島さんは1971年に井深さんに誘われソニーに入社。でもそこでの商品は主にアナログ。

    1976年、こっそりVTRを利用してデジタル録音を開発。と同時にスピーカのコーン紙のための工場を甲府に建てる。このころ井深さんに“音だけを聞いてはあかん、音楽を聴かなきゃ”と言われて、技術の枠を超えて人間の体や心のありようを、真に好奇心の対象以上の何かがあると考えられ踏み込まれた。

    1982年CDP-101を発売。

    なんとその年にアイワ再建のために出向を告げられる。(会社と言うのは能力のある人には厳しいところですね?)

 生演奏と違い、オーディオはオーディオならではの独自の世界であって良い。

 オーディオは生を再生することを持って存在理由としない。オーディオで生演奏を再現するという考え方は捨てた方が良い。

 小型低価格でビジネス拡大できたが、そろそろ高忠実度路線が追及されて良いタイミング。最高の音を作り、最高の音で聴けること。

 音楽がどこの場所で誰に聞いてもらうかを織り込んで作られているように、ユーザー主体のオーディオシステムがあっても良いのではないか。体調や時間、個性を生かしたパーソナルオーディオが次世代に求められるのではないか。あるいは、ユーザー各自の環境に合わせて最高の音を作り最高の音が出るよう工夫する。

 中島さんがトライしたスピーカも紹介。ロケットの打ち上げ台を参考に基礎をしっかりさせ、ユニットとキャビネットは0.5mmほど離して分離。渦電流を減らすフレームカット、重さ5kgの真鍮棒による基礎―――。

 卵スピーカの今後の取り組み説明。色々要望はあるが乞うご期待。セミナーの今後の方向や予定テーマも説明した。さらにNHラボのコンサルタント業にも触れ、皆さんと良い音で楽しむ環境作りに貢献したいと抱負を述べた。

 

第29回 2019.3.2

            1.NHラボから 「中島平太郎の予測と現実」  NHラボ

            2.「音楽メディとしてのYoutube」  中島尚(元ソニー/スタートラボ)

            3.「手作りコンテンツによる未知体験の試行と公開について」 田中和彦氏(武蔵野メディア研究所)

 中島さんの予測と実際では、録音、放送、ディスクのそれぞれデジタル化される、ソフトがすべてデジタルになると予想され、実際にほとんどがその予想通りデジタル化されました。

 

 音楽メディアとしてのYou Tubeの紹介を中島尚さんに紹介いただきました。今ではインターネット利用者の8割がYou Tubeにアクセスしたことがあると言われ、プロの演奏家やオーケストラの演奏の一部あるいは全てを聴取出来るようになりました。多くの演奏家、オーケストラや放送局が自分たちの活動のショーケースとしてYou Tubeを積極的に使っています。画質も音質も向上しています。フォーマットWebmがYou tubeの主流となっており、ビデオがvp09、オーディオがopusが使われています。Opusはmp3(mp4a)やAACよりもビットレート効率に優れており、サンプルレートは48kHz、上限周波数は20kHzです。尚、You Tubeではmp4aの場合上限周波数は15kHzほどでビットレートは128kbpsとなっています。You Tubeの推奨するアップロードデータの仕様が示されています。

 

 次いで、武蔵野メディア研究所の田中さんに手造りコンテンツによる未知体験の試行と公開についてのデモを行っていただきました。

 

 最後に「弦奏」のデモとして弦楽器に組み込まれたスピーカによる再生音を聞いていただきました。

 

第30回  良い音を求めて

            1.「音楽ソフト制作現場」  田中三一 スタジオアトリオ

            2.「本当の?クライオ処理とよい音vs自然な音」  須崎規泰(オーディオ研究家)

 初めにNHラボから中島さんのソフト制作から再生までの系統図を参考に、デジタル領域とゆらぎの関係する領域を眺めました。

 

 田中氏は数々の録音賞、優秀賞をとられています。制作プロセスの機材説明から始まり、ドラムのマイキング(マイク設定)を写真で説明されました。その後JAZZの試聴をしました。DAW Protoolsでの操作を説明と試聴を行いました。20秒のCMソングを素材としてミックスの違いを試聴、確認しました。リバーブ処理、ヴォーカル処理(ヴォーカルのレベル修正、これを「書く」と言うそうですが、の具体例を示さました。コンプレッション処理についても説明がありました。発声によるいわゆる吹かれを除くためにポップガードが使われますが、これのポップガードの回折効果による音質への影響を説明されました。

 ミックスの仕上げでは音量、音質、広がりの組み合わせが大切だが、製作現場では環境が整っているかどうかが課題だそうです。ハイからローエンドまで無理なく聞こえ、細部まで音の判別がつく環境が必要とのことです。最近は個人の自宅や小規模なスタジオが音楽制作に使われることが多いが、満足な環境は少ないそうです。パワードスピーカも多く使用されているが、これにこだわることは良くないと指摘された。

 

すでに世の中に数千万曲が存在する中で、製作する曲をどう差別化して聞かせるかが大切。もちろん楽曲がメインであるが、ミックスされたサウンドにはエンジニアの性格が現れる。ミックスは練習してうまくなると言うものではなく、向いているか向いていないかである。プロデューサーから要求されたサウンドが理解できないと、音は自然と(ミキサーの)好みの方向へ行ってしまう。筒美京平さんが「いい音と売れる音は違う」と言われたことが強く印象に残っている。

 

技術が進みハイレンジで聴く環境が身近になったのは、追いかけている「魅力的な音」で聴ける良い環境になったと思う。言葉によって大切にする優先周波数帯バスバンドが違う。英語は2000Hz以上だが、スペイン語、フランス語、日本語はそれ以下の音域に属している。

 

 ついで、須崎氏にクライオ処理と良い音VS自然な音についてお話しいただいた。

 クライオ処理は超低温に浸し常温に戻す処理。効果が認められた物は、CD、レコード、電気部品、ケーブル、スピーカ、機器筐体、機器全体等。

 難しい問題ですが、良い音とは何かについても考察され、メーカーは原音再生を目指しているようには感じられないとし、売れる音を提供しているように感じると指摘。オルゴールの音とか生楽器の音は聴いて疲れないし気分が良いとしています。その解決策として電源を良質なものにするために太陽光発電を使用している。DC電源で動作する小型アンプを使用し、電解コンデンサーにはスチコンをパラ接続し電コンにはノイズ対策をしている(銅箔テープ)。対策を施した比較機種との試聴を行いAC電源と太陽光発電の違いを試聴しました。

第31回 「没入感オーディオ(Immersive Audio)の現状と制作の実際」 

                     沢口真生(UNAMAS レーベル代表)

 サラウンド制作で世界的に有名な元NHKの沢口真生さんにお話しいただいた。

 私たちは耳2つで何を聴いているのか?視覚情報との連携で3万CHに相当する音を無意識に認識している。2CHステレオでは全てが押し寿司状態で相互にマスキングを生じるために、それらしく聞こえるようにお化粧している。一方サラウンドでは半球面音場再現で空間情報が自然になる。

 

 2CH-5CH-9CHの比較DEMOで確認。サラウンドの優位性を、聴覚検知、クリエーター、ミキシング、音響心理から眺め、自然で、キャンバスが拡大し、マスキングが少なく、つつまれ感とリラックス効果があるとしている。

 

 5.1CHのサラウンドでは水平面の再現を重視した。2000年台に入り現在は半球面音場の表現域に入り、没入感Audio「Immersive Audio」と呼ばれている。多くのジャンルで有効だが、音楽ソフトは2CH主流で、ブティックレーベルの台頭 UNAMAS2L ,SONOLUMINASがある。

 

 没入型サラウンドの実現方法はマイキングが大切で、求める空間再現で収音法式が異なる。現在、Auro 3D、NHK22.2 、Dolby Atmos、MPG-H、DTS-X、H.O.A、WFSなど各種の収音方式がある。音場のまとめ方がチャンネルベースの例、Objectベースの例、シーンベースの例がある。 

 デモとして、Auro3D.  Dolby Atmosを試聴。

 

 沢口氏はこれまでに5度の日本プロ音楽録音賞ハイレゾ部門を受賞している。ヨーロッパの2L、アジアのUNAMAS アメリカのソノルミナスがImmersive Audioの音楽3大ブティックレーベルとして認識されている。

 

 レコーディングシステムの4要素は、デジタル・マイク5CH+4CHハイトマイク、REMデジタル・アナログリモートマイクプリとMADI-光伝送-DAW 192KHz-32bit、Pyramix-Sequoia DAW録音、S/N向上のためのノイズ対策 バッテリー駆動・・等です。

 

 実際の録音を例に、マイクセッティング、7.1CH Main Miking、2 Height mikingの実際が示され、デモが行われた。別の録音で、マイクセット、高さ方向の収音の説明とデモも行われた。

 曲により何をメインに録音し、その雰囲気をどう表現するかを考え録音をしているか、演奏者近くの音はもちろん会場の何処で雰囲気ある録音をするかに努力をされていることも説明された。

 

第32回  「ホール録音現場でのノイズと音質対策」 2019.6.21

                     宮下清孝 (㈱JION)

 JIONの宮下さんがホール録音におけるノイズ対策と音質対策の実際を説明しました。

 

 オーディオマニアや一部の録音スタジオでは「いい音」のために機材選定や電源対策、ケーブル選定などにこだわり工夫をしている。一方音源制作の多くの録音現場ではそれほどの対策が行われていないがUNAMASレーベルの録音ではすでに「良い音」のレベルになっていたので、施した対策がどの程度効果が出るか宮下さんには未知数だった。

 

 セミナーでの再生では改良された卵スピーカを使用した。

まず、CDをアップサンプリングした物とUNAMASレーベルの弦楽四重奏をアップサンプリングした音源で確認した。

 

 ホール録音における問題となるノイズはざっと数えても8種類以上ある。

今回の大賀ホールでの録音では、専用の電源がなく、通常の雑コンセントだった。

 

 そこで、基本対策として「バッテリー電源」を導入した。バッテリー電源のEMCノイズは機器と電源間を1m以上離せば問題ない事を確認。

 電源の中には電圧降下のためのレギュレーターが入っており、これによりわずかにノイズを発生するのでDCノイズサプレッサーを使用した。

 各機材個別にアイソレーショントランスを入れ高周波ノイズを遮断している。

 

 ノイズ対策の3大基本要素は、①シールド&吸収、②フィルタ、③グランド(アース)であるが、③に関して近年のオーディオ界では仮想アースやパッシブグラウンド機器などが用いられている。そのためにコモンモードコイル、ファインメットコアーおよびマグネチックノイズサプレッサーを入れている。

 

 通常ケーブルのノイズ対策としてシールドが用いられるが、一般にはシールドレスが多い。編組線で編みピッチを最適化することでインダクタンスとキャパシタンスのバランスが調整できる。ピッチの細かさで適した周波数帯域がある。

 

 その他マイクホルダーの構造、マイクスタンドの振動対策なども有効である。

 

 TMD社の接点復活材はクリーニングと安定剤のセットになっており、水性バインダーのため良い効果を得ている。その他電子回路のノイズ対策にカーボンシールド、各基板間やコネクタの接合線にファインメットビーズやシートを巻き付ける、ファインメットシート、タングステンエラストマー等、水も漏らさぬ対策の数々を施している。

 

 最後にバッテリー電源の盲点としてアースが取れていない事を指摘。宮下さんは可搬性を考慮して、50㎏程度にまとめたカーボンファイバーフェルトと備長炭を組み合わせたものをアースとした。効果としては背景ノイズが低下し、再生空間が広くなり、微小レベルでの情報量が増加する。人工的な音からより自然な音に変わった。試聴ではノイズ対策の有無を確認できた。

第33回  「1bit 信号によるスピーカ直接駆動」 2019.9.4

                     早稲田大学名誉教授 山﨑芳男 

 早稲田大学名誉教授 山崎先生にスピーカの直接駆動による高効率システムを紹介いただいた。

 初めに、中島さんとの出会いと様々な思い出とNHKでのPCMレコーダー、ソニー3Hグループでの活動、サンプリングレートコンバーターの話などがあった。

 超電導スピーカの開発や、超電導の権威 故北沢先生との話しなどをされた。

 2.8~11MHzの1bit信号でHEMTを使ってスピーカを直接駆動する高効率システムを紹介いただいた。この方式で平面スピーカを使用している高速道路の注意喚起システムの紹介と数種のスピーカによるデモを行った。

第34回  「音質を支える地味な挑戦」   2019.6.8

​       元ソニーEMCS 中山猛

                    「ヘッドホン・イヤホンための音響講座」

                     濱﨑公男(S‘NEXT㈱)

 

 どうやって音を聞いているかを、外部からの音の伝搬、そして耳の外耳道から中に入り骨の伝搬により耳内部のリンパ液に振動が伝わる過程で説明された。リンパ液の音の振動が蝸牛内を伝わっていく。高い音の振動は近い所で共鳴し、低い音は遠い所(深い所)で励起(共鳴)する。この過程で周波数分析をしているとのこと。

 聞こえる音の範囲の説明の後、年齢による高域可聴範囲が狭くなることも説明された。

 人の体や外耳などにより周波数特性が変わるため、イヤホン・ヘッドホンの理想的周波数特性はフラットな特性ではないことを説明。

 

 聴覚の大切な役割は

①音源の方向を知覚すること。

-耳介、頭部、胴体による周波数特性の変化が音の方向の知覚を生む。

②音色により音源の正体を認識すること。

-②の音色認識は①による周波数特性の変化に影響を受けず、音源の正体を認識できる。

 

 イヤホン装着時の鼓膜にとどく音の物理変化が、体の影響による到達音への物理変化と同じになるように調整したイヤホンの周波数特性をターゲットカーブという。これにより空間でフラットな周波数特性の音源に関して聴感でフラットに感じる。

 

 この時、身体の影響だけでなく、空間の影響も受けた音を聞いているので、空間を定義しないとターゲットカーブを決められない。自由音場や拡散音場を基準にターゲットカーブを決めたものは、何かしっくりこないと主張する人たちもいる。そこで、現実的な音響空間を基準としたターゲットカーブの検討が行われている。

 

 映像の比較と音の比較では違いが有り、音では短期記憶が必要としている。音の感覚は3要素、大きさ、高さ、音色に分類される。特に音色はさまざまな表現語で表されるように、多次元的な性質を帯びている。そのため人により表現が違い、その共通化が客観的評価のために求められている。音色因子として美的、迫力、金属の3つが使われている。

 

 イヤーパッドの密閉度で低域特性が変化する。イヤホンは密閉された空気室に音圧を発生させるので、振動板の面積と変位に比例し、空気室の容積に反比例する。振動板の変位を一定にするためには振動板の共振周波数が高くなければならない。

第35回 「良い音のアンプを見つけた」 2019.11.20

                   相島彰徳 (相島技研)

 相島技研さんにコンセプトから回路、評価までお話しいただいた。

 

 開発コンセプト。

 再生音に癖を感じることがありその原因はスピーカにあると考えていたのですが、実はアンプにありました。スピーカとのマッチングを考慮していなかったのが原因です。このアンプにはドライバートランスを搭載しています。その結果情報量が桁外れに多く、繊細な音色も表現しつつ豊かな低音を再生する、という評価をいただいている。

 仕様は、6W/6Ω、ノンフィードバック、ドライバートランス搭載、BTLのLR独立出力、オールフィルムコンデンサー、オールシリコントランジスター等です。

 多くの感想文を紹介いただきました。どの感想文も狙った通りの効果を好意的に紹介しております。

第36回 「ヘッドホン再生を楽しむ」     2020.1.15

                   稲永潔文 (サザン音響㈱)

サザン音響の稲永さんに最新バイノーラル収音再生技術と頭外定位ヘッドホンについてお話しいただきました。

 

 普段自分の周りの音を聴く場合は遠近や方向が分かり、自分が音に包まれているいわゆる立体(3D)音場として感じます。しかし通常の2chステレオをヘッドホン/イヤホンで再生すると、音は頭の中にこもり(頭内定位)、方向も分かりません。

 理由はスピーカ再生を主目的とした収音方法を用いているためですが、いつもの自分で聴いている状態で収音すれば、この現象を除くことが出来ます。その1つの方法がダミーヘッドマイクを使用したバイノーラル収音です。

 

 HRTF頭部伝達関数は方向により違い、同じ方向でも人により特性が違うので、バイノーラル再生でうまく定位する人とそうでない人がいます。そのための特性補正する場合でも、耳の何処が測定点か、使用するマイク、そして使用するヘッドホン/イヤホンによって補正が違ってきますし。さらに骨伝導成分の加算も必要かもしれません。

 

 バイノーラル収音された音は、頭外定位し方向も奥行きも分かるようになりますが、頭を動かすと頭内定位してしまいます。頭を動かしても音源位置からの正しい音情報が両耳に入るように収音・再生すると、常に音は外側に定位し、リアルな3D再生を実現出来ます。

 ヘッドトラッキングの必要性がここにあり、その機能を搭載した頭外定位ヘッドホンVIP-1000が1994年にSONYから発売されています。

bottom of page